アルミニウムの工業的製法「ボーキサイトの精錬・融解塩電解」(仕組み・氷晶石を入れる理由など)

目次

はじめに

【プロ講師解説】このページでは『アルミニウムの工業的製法「ボーキサイトの精錬・融解塩電解」(仕組み・氷晶石を入れる理由など)』について解説しています。


アルミニウムの製法概要

  • アルミニウム Alの製法は大きく2段階に分けることができる。
  • 1段階では、原料のボーキサイトから純度の高い酸化アルミニウムAl2O3(アルミナ)を得る。これをバイヤー法という。
  • 2段階では、アルミナの電気分解によりアルミニウムを得る。これをホール・エール法という。
  • このページでは、バイヤー法およびホール・エール法について、順を追って解説する。

バイヤー法(アルミの製法 第1段階)

  • 原料鉱石のボーキサイト(主成分:Al2O3・nH2O)から純度の高い酸化アルミニウムAl2O3(アルミナ)を得る方法をバイヤー法という。
  • バイヤー法について、次の3STEPで解説する。

●STEP1
ボーキサイトを濃水酸化ナトリウム水溶液に溶かして[Al(OH)4]を得る
●STEP2
STEP1でつくった溶液のろ液を大量の水で薄め、Al(OH)3の沈殿を得る
●STEP3
Al(OH)3を強熱し、純度の高いAl2O3(アルミナ)を得る

STEP
ボーキサイトを濃水酸化ナトリウム水溶液に溶かして[Al(OH)4]を得る

まずは、原料鉱石のボーキサイト(主成分:Al2O3・nH2O)を濃水酸化ナトリウムNaOH水溶液に溶かすことで[Al(OH)4]を得る。

\[ \mathrm{Al_{2}O_{3}+2NaOH+3H_{2}O →2Na[Al(OH)_{4}]} \]

この反応は代表的な両性酸化物と塩基の反応である。詳しくは次のページを参照のこと。

参考:両性元素とは(ゴロ・覚え方・反応式など)

なお、ボーキサイト中の反応しなかった不純物(酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3など)は沈殿するため、ろ過により除去する。

STEP
STEP1でつくった溶液のろ液を大量の水で薄め、Al(OH)3の沈殿を得る

STEP1の溶液を大量の水で薄めてpHを下げる。
pHを下げるとルシャトリエの原理により、次の平衡が右に移動して水酸化アルミニウムAl(OH)3の白色沈殿ができる。

\[ \mathrm{[Al(OH)_{4}]^{-}⇄Al(OH)_{3}↓+OH^{-}} \]

参考:ルシャトリエの原理(温度・圧力変化・希ガスを加えた場合など)

STEP
Al(OH)3を強熱し、純度の高いAl2O3(アルミナ)を得る

最後に、Al(OH)3を強熱し、純度の高いAl2O3(アルミナ)を得る。

\[ \mathrm{2Al(OH)_{3}→Al_{2}O_{3}+3H_{2}O} \]

この反応は、水酸化物の熱分解反応である。熱分解反応について詳しくは次のページを参照のこと。

参考:【熱分解反応】入試頻出3パターンの反応式の作り方などを解説


ホール・エール法(アルミの製法 第2段階)

  • アルミナの電気分解(融解塩電解)によりアルミニウムを得る方法をホール・エール法という。
  • ホール・エール法について、次のSTEPで解説する。

●STEP1
氷晶石を用いてアルミナAl2O3を融解させる
●STEP2
陽極でO2-がeを離し、COやCO2が発生する
●STEP3
陰極でAl3+がeを受け取り、純粋なアルミニウムを得る

STEP
氷晶石を用いてアルミナAl2O3を融解させる

アルミナAl2O3の融点は2000℃と非常に高く、ここまで加熱するにはコストが多くかかる。
したがって、融点降下剤である氷晶石を加えることで1000℃以下まで融点を下げ、Al2O3を効率よく融解させる。

この溶液中には、 Al3+とO2-が存在する。

\[ \mathrm{Al_{2}O_{3} → 2Al^{3+} + 3O^{2-}} \]

STEP
陽極でO2-がeを離し、COやCO2が発生する

次に、溶液中のO2-が陽極でeを離し、COやCO2が発生する。

\[ \mathrm{C + O^{2-} → CO + 2e^{-}}\\
\mathrm{C + 2O^{2-} → CO_{2} + 4e^{-}} \]

このとき電極に渡されたeは陰極側へと移動する。

STEP
陰極でAl3+がeを受け取り、純粋なアルミニウムを得る

最後に、陽極側から流れてきたeを、陰極でAl3+が受け取り、純粋なアルミニウムを得る。

\[ \mathrm{Al^{3+} + 3e^{-} → Al} \]


なぜAl3+水溶液の電気分解ではダメなのか

  • 次のような疑問をもつ人は非常に多い。

「融解塩電解なんて面倒なことせずに、普通にAl3+の入った水溶液を電気分解すればいいんじゃないの?」

  • これはイオン化傾向の知識を元に説明することができる。
  • Al3+とHのイオン化傾向を比べると、Al3+の方が高い。
  • したがって、H2Oから電離したHが存在する”水溶液”の場合、負極からきたeを受け取って(イオンから)単体になるのはHの方になり、結果的に目的であるAlの単体を得ることが難しくなる。
  • これが、アルミニウムの製法としてAl3+を含む水溶液の電気分解ではなく、融解塩電解が使われる理由である。

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著者情報

元講師、薬剤師、イラストレーター
数百名の中高生向け指導経験あり(過去生徒合格実績:東工大・東北大・筑波大・千葉大・岡山大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)。
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
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