ヘスの法則(定義・反応エンタルピーの計算問題の解き方)

目次

はじめに

このページでは『ヘスの法則(定義・反応エンタルピーの計算問題の解き方)』について解説しています。


ヘスの法則(総熱量保存の法則)

  • 反応エンタルピー(ΔH)は一般に測定により求められるが、反応によっては測定が困難な場合がある。
  • そのような場合、ヘスの法則を利用して反応エンタルピーを計算で導き出す。

ヘスの法則とは

●ヘスの法則(総熱量保存の法則)
「化学変化に伴う反応エンタルピーは、反応前後の状態で決まり、反応経路によって変化しない」

  • 「化学変化に伴う反応エンタルピーは、反応前後の状態で決まり、反応経路によって変化しない」これがヘスの法則総熱量保存の法則)である。
  • つまり、反応エンタルピーは”最初と最後の状態だけで決まる”ということである。
  • 例えば、「A→B ΔH=QkJ」という熱化学反応式の反応エンタルピーQを求めたいが、測定が困難である場合を考える。
  • このとき、CからA、CからBに変化するときに出入りする反応エンタルピー Q1Q2を用いて次のように表すことができる。
  • ヘスの法則より、Q1Qを足したものがQ2となるため、この関係を利用してQを求めるわけである。

ヘスの法則の利用

  • ヘスの法則を利用できる実例を紹介する。
  • 炭素C(黒鉛)と酸素O2から一酸化炭素COを生じる反応の反応エンタルピー(COの生成エンタルピー)」は、二酸化炭素CO2を生じる副反応が同時に起こるため、直接測定することが難しい。

\[ \mathrm{C(黒鉛)+\frac{ 1 }{ 2 }O_{2}(気)\longrightarrow CO(気)~~~ΔH=QkJ・・・\color{red}{❶}} \]

  • そこで、測定することが可能な「C(黒鉛)の燃焼エンタルピー」と「COの燃焼エンタルピー」を用いることにより、間接的にCOの生成エンタルピーを求めることができる。

\[ \begin{align}
&\mathrm{C(黒鉛)+O_{2}(気)\longrightarrow CO_{2}(気)}~~~ΔH= -394\mathrm{kJ} ・・・\color{orange}{❷}\\
&\mathrm{CO(気)+\frac{ 1 }{ 2 }O_{2}(気)\longrightarrow CO_{2}(気)}~~~ΔH= -283\mathrm{kJ}・・・\color{green}{❸}
\end{align}\]

  • のエンタルピーをエンタルピー図で表現すると次のようになる。
  • ヘスの法則より、のため、は次のように求めることができる。

\[ \begin{align}
\color{red}{❶}&=\color{orange}{❷}-\color{green}{❸}\\
&=-394-(-283)\\
&=-111~\mathrm{kJ}
\end{align}\]

  • よって、COの生成エンタルピーΔHは、ー111kJ/mol である。

反応エンタルピーに関する計算問題

  • 反応エンタルピーに関する計算問題の解き方について、例題を用いて解説する。

例題1

問題

次に示す熱化学反応式を用いて、エチレンの燃焼エンタルピーを求めよ。

H2(気)+1/2O2(気)→H2O(液) ΔH=ー286kJ
C(固)+O2(気)→CO2(気) ΔH=ー394kJ
2C(固)+2H2(気)→C2H4(気) ΔH=+52KJ

  • この問題の解き方について、次の手順で解説する。

●STEP1
求める反応エンタルピーをQkJとし、それを含む熱化学反応式を書く。
●STEP2
STEP1でつくった熱化学反応式の中にある物質を与式から探す。
●STEP3
それらが同じ側にあれば与式の反応エンタルピーをそのまま、逆側にあればマイナスの符号をつけて、全てを足し合わせる。

STEP
求める反応エンタルピーをQkJとし、それを含む熱化学反応式を書く。

今回は「エチレンの燃焼熱」を求める問題のため、エチレンの燃焼反応を表す熱化学反応式を書く。

\[ \mathrm{C_{2}H_{4}(気)+3O_{2}(気)→2CO_{2}(気)+2H_{2}O(液)}~~~ΔH=Q\mathrm{kJ} \]

STEP
STEP1でつくった熱化学反応式の中にある物質を与式から探す。

次に、STEP1でつくった熱化学反応式の中にある物質を与式から探す。

この解法を使うときは、STEP1でつくった式に含まれる物質のうち、2つ以上の与式に出てきている物質(今回の場合、C(黒鉛)、O2(気))は無視する。

STEP
それらが同じ側にあれば与式の反応エンタルピーをそのまま、逆側にあればマイナスの符号をつけて、全てを足し合わせる。

CO2は両方の式で右側にあるため、与式の反応エンタルピーである「ー394kJ」をそのまま(ただし、つくった式でのCO2の係数は2のため2をかける)用いる。
C2H4はつくった式では左側にあるに対し、与式では右側にあるため、マイナス(ー)の符号をつけて「ー52kJ」となる。
H2Oは、両方の式で右側にあるため、CO2同様「ー286kJ」をそのまま用いる(ただし、つくった式でのH2Oの係数は2のため2をかける)。
これらの値を全て足し合わせると、求めたい反応エンタルピーを求めることができる。

例題2

問題

メタンCH4の生成反応は次の熱化学反応式で表される。

C(黒鉛)+2H2(気)→CH4(気) ΔH=QkJ

以下の反応エンタルピーを用いてCH4の生成エンタルピーQを求めよ。

黒鉛の燃焼エンタルピー:ー394kJ/mol
メタンの燃焼エンタルピー:ー890kJ/mol
水素の燃焼エンタルピー:ー286kJ/mol

  • この問題の解き方について、次の手順で解説する。

●STEP1
問題文で与えられている反応エンタルピーを含む熱化学反応式を書く。
●STEP2
与式の中にある物質をSTEP1でつくった熱化学反応式から探す。
●STEP3
それらが同じ側にあれば与式の反応エンタルピーをそのまま、逆側にあればマイナスの符号をつけて、全てを足し合わせる。

STEP
問題文で与えられている反応エンタルピーを含む熱化学反応式を書く。

問題文より、反応エンタルピーに関する以下の情報が与えられている。

黒鉛の燃焼エンタルピー:ー394kJ/mol
メタンの燃焼エンタルピー:ー890kJ/mol
水素の燃焼エンタルピー:ー286kJ/mol

これらの反応エンタルピーを含む熱化学反応式を書く。

STEP
与式の中にある物質をSTEP1でつくった熱化学反応式から探す。

次に、与式の中にある物質をSTEP1でつくった熱化学反応式から探す。

この解法を使うときは、2つ以上の式に出てきている物質(今回の場合、C(黒鉛)、O2(気))は無視する。

STEP
それらが同じ側にあれば与式の反応エンタルピーをそのまま、逆側にあればマイナスの符号をつけて、全てを足し合わせる。

Cは両方の式で左側にあるため、与式の反応エンタルピーである「ー394kJ」をそのまま用いる。
H2は両方の式で左側にあるため、与式の反応エンタルピーである「ー286kJ」をそのまま用いる(ただし、つくった式でのH2の係数は2のため2をかける)。
CH4は与式では右側にあるに対し、つくった式では左側にあるため、マイナス(ー)の符号をつけて「ー(ー890)kJ」となる。
これらの値を全て足し合わせると、求めたい反応エンタルピーを求めることができる。

【高校化学の計算ドリル】大好評発売中!

高校化学・化学基礎の計算問題が苦手な人に向けた計算ドリルを発売しました。豊富な問題数で、入試頻出の計算問題の解き方を身につけることができます。

著者情報

元講師、薬剤師、イラストレーター
数百名の中高生向け指導経験あり(過去生徒合格実績:東工大・東北大・筑波大・千葉大・岡山大・早稲田大・慶應義塾大・東京理科大・上智大・明治大など)。
2014年よりwebメディア『化学のグルメ』を運営
公式オンラインストアで販売中の理論化学ドリルシリーズ・有機化学ドリル等を執筆
気に入ったらシェアしてね!
目次